こんにちは、天乃 繭です。
みなさんは認知症によって起こる問題行動の1つと言われている『帰宅願望』というのを知ってますか?
夕方になるとソワソワしだして『ウチに帰る!』と言って家を出ていこうとするものです。
母も一時期、自分の家にいるのに、毎日毎日午後から夕方になると、早い時にはお昼前頃から『ウチに帰る!』と言い出して、その対応には本当に困まりました。
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午後~夕方になると『ウチに帰る!』が始まる
私の母は、ある時から突然、午後~夕方になるとそれまでとは急に顔つきが変わったかと思うとソワソワし出して、自分の洋服やブラシなどの身の回りのものを紙袋や風呂敷に包み、その支度が終わると『お世話になりました。ウチに帰りますね!』と座って深々と頭を下げて私に挨拶をして家を出ていこうとしていました。
この当時はまだ認知症に関する知識も全然なかった時だったので、母のこの『ウチに帰る!』と言って家から出ていこうとする症状が認知症による周辺症状の1つだったことはもちろん知りませんでした。
なので、この『ウチに帰る!』は母だけに出ていることだとず~と思っていたのです。
毎日毎日午後になるのと、時には午前中から始まることもあったのですが、いずれにしても毎日のことだったので、午後の時間になると『帰る!』とまた言い出すんじゃないかとビクビクしていましたね。
何かのスイッチが入ってこの状態になるようなのですが、こうなると、いつもの母の顔つきではなく別人のようになってしまうんです。
目つきも顔の表情もきつくなり、いつもは足元も危なっかしい感じなのに、この時ばかりはすごいデキパキとした動きで危なっかしげなとこなど全くなく帰り支度をし出すのですから。
認知症によるものだとは知らなかったから、ここが自分の家であることをわからせようと説得したり、どこに帰るのか聞いてみたりしても、こちらの言うことには全然聞く耳をもたず完全無視で、私の声など届いていない様子なのです。
とにかく『ウチに帰る!』、そのことだけにしか意識が向いていないのですね。
姉が来てくれている時には、母を車で連れ出してくれました。
近所を車でぐるりと15分ぐらい走ったあとに帰ってくるのですが、同じ家に帰ってきているにもかかわらず、『ただいま~!』と言って帰ってくるのです。
姉曰く、たったの15分ぐらい車で走ってくるだけだから、家に帰ってきたときに『さっき出てきた家と同じ家じゃない!ここは私の家じゃないから!』って言われたらどうしようかとビクビクものだったとのことですが、同じ家に帰ってきても一度もそのようなことを言ったことはなく、母は『自分の家に帰ってきた』という様子でした。
またある時には、どんなに言い聞かせても『ウチに帰る!』と言ってきかないので、私も頭にきてしまい、『もう勝手にしてっ!!!』と言ってしまいました。
すると、母は、真冬だったにもかかわらず部屋着のままコートも着ないで本当に出て行ってしまったのです。
訳のわからないことを言うわ、こちらの言うことは聞かないわで、『もう勝手にしろ!どうなったって知らないからね!』と思うのですが、その怒りの感情と一緒に、迷子になったり事故に遭ったり警察に保護されたりしたらどうしよう、という思いもあり、結局は母には気付かれないような距離を保ちながら後ろからついて行きました。
母に気付かれないように電柱や建物・木の陰に隠れたり、ちょっと距離が離れてしまうと小走りで近づいたり。。。。
こんな様子をもし誰かが見ていたら、超~怪しい人に思われていたでしょうね(笑)。
かなり歩きました。
家の近くとはいっても母は普段歩いたことのない道です。
母も次第に不安になっていたのでしょうね。
家の周りの掃除をしていた見知らぬおじいさんを発見すると、母はそのおじいさんのところに行って何やら話しかけています。
私は電柱の陰に隠れて見ていたのすが、聞かれているおじいさんが困ったような顔をしていたので『これはまずい! 警察に連絡されても大変!』と思い、偶然ここを通りかかったかのようなフリをして母の前に姿を見せると(私的にはかなりしらじらしかったのですが。。。)、母は『あら、来てくれたのね、よかったわ!』と。
そのおじいさんは頭に???がついているようでしたが、何か言われる前に丁重にご挨拶をしてその場をそそくさと立ち去りました。
危ない、危ない!!
母はさっき家を出る時に私と喧嘩をしたこともすっかり忘れて、私が持っていったコートを羽織り、一緒に家に帰ってきました。
出て行った家と戻ってきた家は全く同じなのに、母はすっかり自分の家に帰ってきた感じで、『ただいま~!』と。
毎日毎日午後~夕方になるとこのような状態になるので、本当に午後になるのが恐怖で仕方がなかったですね。
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『ウチに帰る!』と言うその『家』とは?
母の『ウチに帰る!』はどのぐらい続いたでしょうかね?!
デイサービスに通うようになってもしばらくは、夕方になると『ウチに帰る!』と言っていたそうです。
デイサービスに行かない土日は、その恐怖のスイッチが入る前に先手先手です。
お昼ご飯を食べてちょっと休むと、夜ご飯の買い物に連れ出すようにしていました。
ゆっくりゆっくりと歩いて買い物に行き、買い物が終わると喫茶店でコーヒーを一緒に飲んで時間を過ごし、またゆっくりゆっくり歩いて夕方近くに家に帰るのです。
そのようにしていると、『ウチに帰る!』とは言わずにいてくれました。
この方法をかなり長い間続けていましたね。
何がどうなるとそのスイッチが入って人が変わったようになり、そしてある時間が過ぎると何事もなかったかのようになるのか、本当に不思議でした。
この状態は、ず~と母特有のものだと思っていたのですが、母が認知症との診断を受けてから読んだ本に、この『ウチに帰る!』は認知症の特有の周辺症状の1つである、と書いてあるのを読み、『母だけのものではなかったんだ! 認知症にはよくある症状なんだ!』と思ったら、何だかホッとしちゃいましたね。
みんなも同じなんだ、ウチだけじゃなかったんだ、と。
その本によれば、女の人は『ウチに帰る!』ですが、男の人は朝になると『会社に行く!』となるパターンが多いのだそうです。
この『ウチに帰る!』の『家』は一体どこを指しているのでしょうね?
ついこの間読んだ本の中では、認知症の高齢者が言う『家に帰る』の『家』は、実家のことを指しているように思いがちだが、恐らく実家に帰ったとしても同じように『ウチに帰る!』と言い出すだろう、と書いてありました。
そして、この『家』というのは、
- 自分が落ち着ける場所
- 自分を必要としてくれる場所
- 自分がいてもいいと思える又は思ってもらえる場所
を指しているのだそうです。
そうだったんですね!!
ご多分に漏れず私も、母が『ウチに帰る!』と言っている『家』は、母の実家のことを言っているのだとず~っと思っていました。
だって、母の口から出てくる人の名前は、母のお母さんだったりおじいさん・おばあさんだったり兄姉弟だったりで、母が実家で暮らしていた時の家族の名前ばかりだったからです。
一度、母を実家に連れていけば気が収まるのかなぁ、と思っていましたが、認知症の人達が言う『ウチに帰る!』の『家』は実家ではなかったのですね。
この本によって、『家』は何を指すのかを知ることができましたが、正直何だかちょっと寂しい気にもなりました。
自分が落ち着ける場所・自分を必要としてくれる場所・自分がいてもいいと思える又は思ってもらえる場所を求めているのは、認知症の高齢者に限ったことではないですよね。
誰でもがそういう場所を求めているはずですものね。
『帰宅願望』として現れるこの症状は、決して認知症の人の特別なものなんかじゃないんですね。
『ウチに帰る!』は私の介護対応のバロメーター
認知症の周辺症状の1つである『帰宅願望』。
確かに周辺症状の1つではありますが、この『ウチに帰る!』の『家』とは、
- 自分が落ち着ける場所
- 自分を必要としてくれる場所
- 自分がいてもいいと思える又は思ってもらえる場所
を指しているということがわかりました。
となると、母が、『ウチに帰る!』と言っているその背景には、
- 居心地がよくない
- 自分は必要とされていない
- 自分はここにいてはいけない
と感じていたことになるわけですよね。
『ウチに帰る!』を言わなくさせるためにではなく、母が心から安らげて安心できる環境を私が作ってあげなければ、と思いました。
母は、今では『ウチに帰る!』とは言わなくなりました。
以前よりも少しでも『安心感』や『心の安らぎ』を持ってくれたのであれば嬉しいのですが。
子育てをしている時、母親の気が急いてくると子供も落ち着きがなくなったり泣き出したり、より手がかかるようなことになるのを経験した人は多いと思います。
それと同じで、母の身の回りのこと、自分自身のこと、家族のことなど、毎日時間に追われてバタバタと過ごしているのですが、もしかしたらそのバタバタやイライラが母を落ち着かなくさせていた原因なのかもしれないと最近気付いたのです。
なので、極力バタバタ・イライラしないように心掛けています。
とは言っても、母はその時々によって1つのことにかかる時間が全然違うので、私が時間に余裕をもてばいいという単純なものではないのが厄介なんですがね。
それでもなるべく心に余裕をもつようにしています。
私がそのように心掛けてから、母は以前に比べて落ち着いてきたように感じています。
とは言ったものの、先日、母がデイサービスのお迎えに来てくれた人に『ここは私の家ではないから』と言ってました。
『ウチに帰る!』ではありませんでしたが、『自分の家ではない』と母は感じていたのですね。
ということは、私の母への対応がまだまだなんですね。
母の言葉1つで、自分がまだまだできていないことを知ることができます。
反省です!そして改善です!
母のその言葉は、私の母への対応のバロメーターになっています。
日常のこととなると、なかなか思うようにはいかないことが多いですが、私の対応によって少しでも心安らげるようになってくれれば、次第にお互い笑顔になっていけるように思っています。
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